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[Inselslypesot]

　引っ込みがつかない。二の矢も放ってしまった。 「こんなんだったらペリー提督には毎年来てほしいなあ」
「考えておきます」 「ああ、ここんとこ胃の調子が悪くてな。警察病院には行きたくねえし、どっか別のところへ行こうと思ってん だ。一人じゃ心細くてな。連れションみたいなもんだ」
　　　　　　見かけにだまされないように 　女たちは興奮気味に戦果について語り合っている。
「じゃあ助かったんだな」 　嗣勇はやっと永年心に刺さっていた刃が抜け落ちた思いがした。面罵《めんば》されても当然のことをしたの に、妹の翳《かざ》した温かい手ひとつで冷えた心が解《ほぐ》れていく。真鶴がにっこり笑うと嗣勇は号泣し て抱きついた。
　気が遠のきそうになった。小さな十字路。ヘッドライトが民家の垣根を映しだす。慌ててブレーキを踏む。車 の鼻先がそこに突っこんでいた。バックしようとはしなかった。ハンドルを切り、強引に突き進んだ。木の枝が がりがりと車体を擦る音。 　それを怪しいともおもわないで、わたしは尾を振り、鰭を動かして、心のままに水中を逍遥した。｜長等《な がら》の山おろしに立つ浪に身を預け、志賀の入江の｜汀《みぎわ》に遊び、歩く人に驚かされて｜比良《ひら 》の山影が映る深い水底に身を隠そうとしても、夜になると｜堅田《かただ》の｜漁火《いさりび》に引寄せら れて行くのは是非もない夢心地である。日が暖かいときは水面に浮かび、風の荒いときは｜千尋《ちひろ》の底 で遊んでいたが、あるとき急に空腹を覚えて、どうにも我慢が出来なくなった。見ると目の前に、文四が釣糸を 垂れており、その餌がまことに香しい。海神の戒めをおもい出し、「わたしは仏の弟子だ。あさましい気持を起 こしてはなるまいぞ」と必死に自戒に努めたが、ついに堪えかね、この餌を｜掠《かす》めたくらいで捕えられ る筈はあるまい、それに文四は相識の者である、なんの遠慮をすることがあろう……と餌を呑みこ んだ。
　御内原が閉鎖されたら聞得大君まで御内原に閉じこもる有様だ。これだと聞得大君御殿が独立している意味が ないではないか。聞得大君なら有事のときには祈願し、霊力で国難を排除するのが義務だ。そのために王族神と いう王に匹敵《ひってき》する地位をもらっている。 　津波古は強盗してでも金を工面したかった。明日また来られるだけの金さえあれば大与座《おおくみざ》に捕 まって首を刎《は》ねられてもよい。ただ自分が死んだ後も真牛が生き続けなければならないのが、あまりにも 不憫《ふびん》で、いっそ一緒に死にたいとも思った。