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「ただいま。——紀《のり》子《こ》。どこ?」 [#改ページ]
私は吹き出した。しかし気の弱い永松が、一度安田につかまった以上、なかなか逃れられない理由も呑み込め た。 「そうだ! 思い出したぞ」 マリはふっと目を覚ました。 「お前を仲間へ入れてやったのは、よっぽどのこったぞ。よく覚えとけ」と彼はいった。肉はもうなくなってい た。 「さあ……順ちゃんは一年も居なかった。俺は小学生だったから順ちゃんの田舎になんて興味がなかった。親父 やおふくろもとっくに死んでしまった。懐かしくて捜し当てようとしたけれど手掛かりがまるでな い」 「今、教祖様は——」 井口はちょっとポカンとしていたが、 敦賀の港は雨にけぶっていた。ここはソ連への船の玄関口になっているせいかロシア語の看板を出しているレ ストランや喫茶店が目につく。町にはロシア人の船員らしい外国人も歩いている。そうかと思うとその日なぜか 市の文化センターではあの「反ソ派」の竹村健一の講演会が開かれているらしく、通りのあちこちにパイプをく わえたおなじみのポスターがベタベタ張ってある。せっかく雨の港町に来たというのに、これだけは興醒めであ る。 その結果私の到達したものは、社会に対しては合理的、自己については快楽的な原理であった。小市民たる私 の身分では、それは必ずしも私の欲望に十分の満足を与えるものではなかったが、とにかく私は倨傲を維持し、 悔まなかった。 「まあ、泥棒が持ってったのなら、物好きですな」 |
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